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 京大公認創作サークル「名称未定」の公式ブログです。
サークルについて詳しくはこちらへ→公式WEBサイト

2023-10

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新歓とか

 ほしい本があるのだと彼女が言ったから、わたしは彼女を隣にのせて、軽のイグニッション・キーを回した。さして暑くもないはずだったけれど、むっとした空気がわたしに空調のつまみを回させていた。朝の十時すぎから降り始めた予報外の雨は、止みそうになかった。

「先輩が教えてくれたの、あそこのブックオフに売ってたって」

 彼女はそう言って、珍妙な作家の名前と、そのわりに平凡な小説の名前を口にした。

「通販で買えばよかったんじゃない」わたしは言った。「そっちのほうが楽だし、そうしていれば服も濡れなかった」

わたしは、ハンカチで肩を拭う彼女を見た。駐車場を少し歩くだけとはいえ、一本の傘でどうにかしようと考えたのが間違いだった。

「言えてる」彼女は乾いた笑い声をあげた。「だけどこだわりはどうしようもないものだから。それに」彼女はサイドブレーキをおろす私を見る。「今、言っても遅いでしょう。あるいは引き返そうか。肩口を濡らすだけの散歩が好み?」

「悪くはないね、それも」

「嘘ばっかり」

 クリープ現象が、ゆっくりと車を運んだ。

 
 早咲きの桜は、まだ散るようなそぶりを見せていなかった。彼女はぼんやりと窓の外を眺めて、雨に濡れた花弁と黒々とした枝を目で追っているようだった。

「春だね」

 彼女は言った。わたしは曖昧に返事をした。「ああ、うん」

県道はあまり混んでいなかった。わたしたちの住む家から三キロほど離れたブックオフにはすぐ到着し、がら空きの駐車場には苦労もなく車を停めることができた。

「ゆうは来る? それとも待ってる、車で?」

 シートベルトを外しながら、彼女はわたしに尋ねた。べつだんほしい本もなかった。ただ、待っている理由もとくにはなかった。

「いくよ」


 店内に入るなり、彼女はわたしをおいてお目当てのフロアへと向かって行った。本の趣味は違うのだから、追ってもあまり意味はなかった。服に付いた水滴を払って、中古のCDコーナーへと向かった。家にはプレイヤーなどなかったけれど。

 
 時間がかかる買い物ではないだろうと思っていたけれど、彼女がわたしに声を掛けてきたのは数十分後の事だった。ちょっとした手提げほどの大きさのレジ袋は、直方体に膨らんでいた。

「随分買ったね」

「何度も来るのは面倒だし」

「どうせいくらかは積むんでしょ」

「いつでも参照する権利を得るんだよ。本を買うっていうのはそういうことだから」

 わたしは、彼女の部屋の中の百を超える“権利”とやらを思った。

 雨は、まだ降り止んでいなかった。わたしは店の外に置かれている傘立てを見遣って、首を傾げた。わたしたちの傘が消えていた。

「盗まれたんだ」

 彼女がつぶやいた。盗まれたといっても所詮はビニール傘のことで、大した被害とも言えなかった。

 傘立てには、他に何本ものビニール傘がささっていた。わたしの手は自然と、そのうちの一本に伸びかけた。しかし、不意に疑問が頭をよぎった。誰がわたしたちの傘を盗ったのだろうか。

 雨が降り始めたのは、十時を少し過ぎた頃のことだった。今から五時間も前の事だ。そんな時間、店の中にとどまっている者もいないだろうし、あるいは、傘もささず外をほっつき歩いている者もないだろう。だから、不意に降り始めた雨に、しかたなくわたしたちの傘を盗ったというわけではない。しかし、ならば盗人は、この店に来る段階では傘を持っていたはずなのだ。だから、盗人は何らかの理由で傘が使えなくなったために、わたしたちの傘を盗ったということだろう。その理由とは何か。

簡単だ、彼、ないし彼女もまた、傘を盗まれたのだ。

 わたしは五時間前の事を思った。この店の開店時間は、十時からだ。雨が降り始めたのはその少し後の事だったし、その雨は予報外のものだった。きっと、開店と共に店にやってきたとある客は数十分かけて古本を買い込んだのだろう。そしてその客は、もしかしたらレジ袋を買わなかったのかもしれない。予報外の雨に本が濡れるのは、好ましくない。その人物の手は、傘立てに伸びたのだろう。そうして傘を盗まれた者は、別の傘を盗んだ。そうして傘を盗まれた者もまた……。

 そして、その連鎖の先に、わたしたちがいるのだ。

 わたしは傘立てから手を引っ込めた。隣に立つ彼女は困ったような顔をしていた。

「本、濡れちゃうかも……」

「レジ袋に入れてあれば、大丈夫だよ」

「でも……」

「ならわたしのカバンに入れよう。防水性だし」

「風邪ひくよ」

「すぐ車だよ」

「だけど」

「いいんだよ」わたしは言った。「これでいいんだ」

 帰り道、小さくくしゃみをした彼女は、恨めしそうな顔で「だれが盗ったんだろう」と考え込んでいた。どうでもいいでしょう。わたしはおざなりにそう言ったけれど、彼女は納得しないようだった。

「さっきさ、あたしたちが店に付いたとき」彼女は言った。「駐車場に、長野ナンバーの車があったんだ。きっと雨が降る以前から走ってたんだと思う、今日。それで、なんとなくブックオフに寄って、思いがけず一杯本を買ったんじゃないかな。車から店に向かうときには、短い距離だったからそんなに気にしなかったけど、本を抱えると都合が違ったんだ。だからあたしたちの傘を盗ったんじゃない?」

 彼女は、また小さくくしゃみをした。

 わたしは彼女の説に、否定も肯定もしなかった。

 桜の花弁が一枚、雨に打たれながら宙を舞っていた。

◆◇◆◇

 新幹線に乗ってしまえば、地元までは35分で行けるはずでした。だけどわたしはなにか血迷って、普通列車で紀伊半島をぐるりと回って帰る道を選んだのです。これを書いているのは三月十七日。まあ、十七日でも解釈次第では三月上旬でしょう。ほら、二桁目を四捨五入すれば。

 京都から名古屋まで、十五時間ほどかけて帰っています。それだけ時間があれば小説の一冊くらいかんたんに読めてしまうというもので、わたしはさきほどロス・マクドナルドを一冊読了しました。ロスマクはハードボイルド派の重鎮ですが、わりあい本の入手難易度が高くて悩ましい所。本屋なんかに行くとたいていチャンドラーは揃っているのですが、ロスマクは見かけませんね。古本まつりでポケミスを漁れ!

 ハードボイルドなんかを読むと、どうしても文章に影響をうけてしまうなあと思うのですが(まあ上記のやつもそんなとこ……ほんまか?)、ただかっこつけてる感じになるだけです。べつに自分の書くものの主人公は孤独でもないし、抑圧されてもいないし、タフでなければならない理由もありません。強くなくても生きていけているし、優しくなくても許されています。それはおそらく他の小説に影響を受ける時もおんなじで、西尾維新の語り部じみた言い訳と戯言を紡がなければいけない人物を書いているわけでもないのにだらだら述懐させてしまうし、矢部崇をまねて無駄に文章だけ気持ち悪くしてしまう。東川篤哉をまねたユーモアは空回りして、『氷』の技巧に失敗する。べつに模倣は悪い事ではぜんぜんないけれど、どうしてそうした文章を書くのかを、もっと考えた方がいいんだろうなと思う今日この頃です。というか、そうして文章を模倣していく中で自分の書くものと文章のスタイルが一致していくんだと思いますけどね、普通。そうでもないかも。すくなくともわたしはそうで、そしてほかにもそうしたひとはいるんだろうなとおもうところで、まあ何が言いたいってとにかく書け! ってとこですよね。読め、書け! ○○って作家の小説を読んで文章に悪い影響を受けた。いいじゃないですか、その悪癖を飼いならして血肉にしましょう。戯言だけどね。

 そういえば新入生の皆さん、合格おめでとうございます! 新生活が始まって人間関係の構築に悩むところかもしれませんが、とりあえずサークル入っとけば趣味の合う友人が見つかるかもです。学部の友達とかはね、学部によってはまあできませんから(例:文学部……わたしだけか?)。

 というわけで当サークル『名称未定』も新入生を随時募集しております。漫画、小説、詩、短歌、イラスト、常人には理解できない論文まで、二次元単色媒体の創作ならなんでもかかってこいのゆるいサークルです。感染症の為今はオンライン(discord)を中心に活動中でして、Twitterやホームページにサーバーリンクがございますので、ご興味のある方はぜひいらしてください(当サークルはインカレサークルではありませんので、ご了承ください)。
 
 ちなみに🉐情報。去年から対面活動を復活中です。新歓を対面で出来るかどうかは未定ですが、普段の活動では対面も一部行っておりますよっと。

 ではではサークルの宣伝を申しましてこのあたりで。担当は有末ゆうでした。またねっ!

Edit 00:46 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

旅行の思い出

『シュメッハ』:ウル第三王朝に出現した宇宙人。三年にわたり人類と交流をしたが、その後人類から自分たちについての記録や記憶を全て抹消して立ち去った。

 一月の上旬を過ぎて、そういえば十二月上旬の担当分を書いていなかったなあ、と思い出しました、有末ゆうですごめんなさい。何も書かないというのもよろしくないので、一月以上経ってはいますが担当分を書かせていただきたいと思います。
 とはいっても何を書くべきだろうか、何も案が浮かばなかったのでキーワードを探すべくぶっとい辞書をぺらぺらめくっていたのですが、そんな折に見つけたのが冒頭の単語でした。シュメッハ。語源にはシュメールがあるのでしょうか、そんなことを思いながら説明文を読んで、わたしはちと首を傾げました。シュメッハと呼ばれる宇宙人たちは地球から自らの記録や記憶を全て消し去ったのに、どうして辞書にその名が残っているのだろう。
 もしかするとなにか、フィクションの中の単語かもしれません、私は検索サイトで『シュメッハ』と調べてみました。ミハエル・シューマッハ。ヒットするのは高名なレーシングドライバーの名前ばっかり。
 いくつか他の辞書をあたってみると、シュメッハという単語が載っているのは私が最初に調べた辞書だけでした。あまりポピュラーなことばではないようです。
 出版社に電話してみると、手元の辞書にはその言葉は掲載されていないですね、と返された。
「じゃあ私のこれは一体なんなんですか?」
『んー、ああ、そうだ、それ何版ですか?』
「初版ですけれども、1956年発行」
『あー、はいはい、ちょっと待ってくださいね』がさごそ。『ありました、ありました。えーっと、うん、初版だけに掲載されてますね、それ』
「他にはない?」
『ええ、そのようですね』
「でも、減るものなんですか、収録されてることばって」
『場合によりけりですけども……あ、上善さん!』
 出版社の人は誰かを呼びかけました。
『編集長です、この辞書の、初代の』上善如水、という人物がこの辞書を編んだそうです。『これについてなんですけれど……』
『ああ』しゃがれた声でした。『うん? おかしいな、こんな単語を載せた覚えはなかったんだが……それに第二版で消した記憶もないが……』
 誰かの悪戯かもしれん。上善さんは困惑したような声でそう締めくくった。
 悪戯だろうか。そうではない気がしました。このことばは実在する。漠然とした確信、その時、私は誰かに呼ばれた気がしました。誰に?ーーあるいは、ことばに。
 教授なら何か知っているかもしれない。私の師匠はメソポタミア研究の第一人者なのですが、彼女ならわかるかもしれないと思って連絡をとってみると、今は中東で単身フィールドワークをしていて、連絡はうまくとれないと助手の方に言われてしまいまいした。大分長期にわたる調査のようで、ブログを早々に書いてしまいたい私にとって、到底待てるような時間ではありません。私は彼女に直接会うべく、中東へと飛びました。
 私の勝手なイメージとして、この地域は年がら年中剣呑な雰囲気が漂っていると思っていたのですが、あにはからんや随分とのんびりした場所で、聞き込みをするにしても親切な人が多かったです。日本人の目撃証言はすぐに集まりまして、教授の居場所は三日で割れました。私はヒッチハイクでその地へ向かい(3回ほど騙されかけて危ない目に遭いました)、フィールドワーク中の教授に出会いました。
「シュメッハについて何かご存知ですか?」
 私がそう聞くと、彼女は顔をこわばらせました。
「どうしてそのことばを知っている?」
「辞書に、あって」
「どの辞書?」
 私が例の辞書の名前を出すと、教授はゆるゆるとかぶりを振りました。
「悪戯よ。……タチの悪い、悪戯」
「先生、あなたは何か知っているのですね」
「何も知らないわ、知るはずがない。そんなことば」
「それは嘘でしょう」
 その時、私の携帯電話がこの地に来てから初めて震えました。国際電話のようです。番号は知らないもの。
「もしもし」
『有末さん?』
「ええ、そうですけれど。あなたは?」
『セシマシルカと申します』
 瀬島標華、という文字だと説明されました。
「どなたですか?」
『例の辞書を編んだ一人ですよ。もうあの会社はやめているんですけれども。編集長から連絡がありましてね、久しく』
「なにかご存知なんですか、あの単語について?」
『あれを掲載したのは私です』
 頭の中で冷たい電流がはしりました。
「本当に⁉︎」
『嘘なんてつきません』
「一体なんなのですか、あの単語って?」
『書かれている以上のことはありませんよ』
「でもおかしいでしょう、あれが辞書に載っていること自体、そして瀬島さん、あなたがあのことばを知っていること自体」
 そのときでした。隣に立っていた教授がかっと目を見開いて叫びました。「セシマ⁉︎」
「え、あ、ちょっと、先生!」
 教授は私からスマホをもぎ取ると、マイクに向かって怒鳴りつけるような声をあげます。「シルカ、シルカなの?」
『あらら、久しぶりな声ですね、洋子』
 瀬島さんの楽しそうな声が聞こえる。
「シルカ、あんた一体いまどこにいるのよ」
『さあね。どこにいるんだろうね、私って』
「信号の音、救急車のサイレン、そこは日本よ。雑踏ね、ざわめきが聞こえる。近くで広告が流れているーーTVCMね、それが流れるのは名古屋だけ、そう考えるとわかってくるーー今、あなたの周りで車がカーブを描くように走行している音がする、ロータリー交差点でしょう、そう、あなたは名古屋駅前にいる」
『そう思うならば、そう思えばいい』
 その瞬間、風を切る音が聞こえました。波が砕ける音も。
「海……?」
 私は呟きました。と、次の瞬間には巨大なエンジンの唸り声が響く、飛行機が飛び立っていく音。かと思えば明らかに日本ではない雑踏の音がする、ニーハオ、という声が聞こえる、次の瞬間には大河の流水の音、どこかで祈りの声が聞こえる、スパイスの香りを幻視するーー気がつけばまた違う場所の人混みの中、私の知らない場所ーーいいや。
 私は知っている、このざわめきを。土埃をあげるバイク、露天の主人が張り上げる声、はしゃぎ回る子供たちの黄色い声、どこかで銃声が聞こえているーーあの街だ。つい数時間前までいた、あの街。
「どこにいるの、シルカ!」
 雑踏の音が消え去った。残るは荒涼とした大地に吹き荒ぶ風の音と、教授の悲痛な叫び声だけ。なんで私は教授の持っている電話から出る音が聞こえていたんでしょうか。
 気がつけば電話は切れていたようです。
 それでも、瀬島標華の声は聞こえたんです。
『ここよ。そしてあの場所へ』
 風の音が変わりました。そして、耳の奥で薄いガラスのようなものが割れた、そう幻覚しました。その途端に世界はクリアーになって、私は、息を深く吐きました。知らず、緊張していたようです。
 教授は、私のスマートフォンを持った手をだらんと下げて、奥歯を噛み締めながら震えていました。
「ジッグラトへ」
 教授は掠れた声で言いました。
「ジッグラトへ行きなさい。そこでシルカが待っているから」
 私は尋ねます。
「ジッグラトって、ここからどれくらいですか?」
「車で二日ほどよ」
「あー、ちょっときびしいですね、それは」
 教授は眉を顰めました。
「どうして?」
「三日後テストなんで。それまでに日本に帰らなきゃ」
 教授は目をまんまるに見開きました。そして、けらけらと笑い出しました。
「ああ、それはいい意趣返しだ!」

 日本に戻る飛行機の窓から、遠く西の方、大地と空を繋ぐように、一筋の真っ赤な光が伸びているのを目の当たりにしました。私だけのようでした、それが見えているのは。
「フィッシュ、オア、チキン」
 平和そうな顔をした乗務員さんが機内食を運んできてくれました。私がフィッシュと答えますと、二十センチくらいの大きさの焼き魚がでん、とお皿に乗せられました。
 そのときでした、西の空に伸びる光の筋がぐいと曲がり、秒速三十万キロの速さで私の目の前の魚に命中しました。
 魚の目が、ぎょろりとうごきました。
 そして小さな口をぱくぱく動かし、シルカの声が叫ぶのです。
『ジーザス!』
 私は微笑みました。私も叫ぶのです。
「南無三!」
 魚ははじけて飛び散りました。隣に座っていた男の人がびっくりしたような顔をしていました。

 
 不思議な物事は意外と身近に落ちてるものです。みなさんも一度自分のまわりをぐるりと見渡してみてはいかがでしょうか。それでは。有末ゆうでした。

Edit 15:12 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

設定についての雑記

 11日はきっと上旬。ということでこんにちはこんばんは、10月上旬担当有末ゆうです。いえい!
 時の流れは速いもので、もう10月も三分の一を過ぎました。私もさっさとブログを書いてしまわねばと額に汗かきただいまキーボードをたたいているわけですが、しかし一体何を話したものでしょうね。前回担当させていただいたときは盛大にネカマ妄想ムーブをさせていただいたわけですし、今回は真面目に創作の話でもしましょうか。
 私はこのサークルで小説なぞを書かせていただいているわけですが、例会中の雑談で時折話題にされたりされなかったりする事柄として、プロットを立てるか立てないか問題みたいのがあります。私のみるところ「たてないかなー(明確に書き出したりしないという意味において)」という人が多そうですが、まあ短編中心に書いているということもあって、それも自然な気がします。二万字ていどのものでしたら頭の中で話を組み立てれば破綻はあまりしないという実感がありますので。
 で、私はどうかって話ですね。私はこの頃ちゃんとプロットなるものを立てて(書き出したりして)話を書こうかなという方向でやらせていただいてます。なにって最近は書いたものを出すと、書いてることと書きたいことが違うという事がよくありまして、ならば一度設計図を書き出して勘案して吟味してよし、と書き出せばまあ上手くいくかな、という考えているところです。実際にどうなるかは分からないところですけどね。
 そして、最近プロットと共によく考えようと思っているのが設定です。これは最近書いているものてきに設定をよく練っておく必要があるというところもあるのですが、しかし設定を大学ノート十四ページくらいに渡って書いてみると、執筆中になんだか安心して筆を進められるという実感があります。ここがどんな場所であり、このひとがどんな人物であるか。設定として書かれたことが百あったとして、三十しか使わないという事はきっとあると思います。でもその三十はきっと他の七十を媒介にして結びついている三十であって、背後に広がる設定のネットワークに支えられたものになっているはずです。そのために、設定を練っておけば書いているときに「あれ、これってこことの整合性どうなってるんだろう」とか、「この学校ってどういう場所になるんだ?」とか、あんまり悩まなくて済むようになってます(今のところ)。だから何を書くにしても、設定を練るのは良い事じゃないかなあと思いますね、はい。あと、結構楽しいんですよ、ノートに色々書き出すの。設定ノートなんて誰に見せるわけでもない、半分落書き帖じみたものになってまして、そこに妄想を弾けさせるのはいいものです。きっと他人に見られたら恥ずかしくって死んじゃいますが。どう考えてもこんなん話に書かんやろ、ってとこまで広げていくとしかし物語の世界の解像度は増してきまして、「あれ、これ使えるな」というアイディアも予期しないところから飛び出てきたりします。そしてその設定とにらめっこしながらプロットをたてて話を完成させていくわけですね。まあそれでほんまに上手くいくのかなんて、正直分からないんですけどね。でも楽しいですよ。楽しむのが一番ってとこありますからね、創作って(たぶん)。
 というわけで今回は真面目に(真面目か?)うろんな創作論について書かせていただきました。まーこんなのずぶの素人が適当書いてるものですからね、「有末とかいうのがなんか言ってら、ははっ」と笑い飛ばしてもらえばいいのかなと思います、はい。
 というわけでみんながみんな、みんなの仕方で楽しい創作ライフを! 
 それでは十月上旬担当の有末ゆうでした。またねっ!

Edit 20:40 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

夜とにんにく。それとあの子。

 こんにちは。こんばんは。そして、はじめまして。この度初めてブログを担当させていただく有末ゆうです。初めてこの場に出てくるという事で恥ずかしい気持ちでいっぱいですが、暖かい目で見ていただければうれしいです。
 さて、わたしも創作サークル「名称未定」に在籍しているという事で執筆活動をしているのですが、最近、創作というのは時として狂気じみてくるなぁ、という事を思います。
 つい先日、久しぶりに午前五時に目を覚まして、柄にもなくテンションが上がっていました。普段は十時ごろにもそもそと布団から這い出るような生活をしているわたしにとってそれは非常に珍しいことで、よしよし今日は調子がいいぞと顔を洗ってにんまり笑い、普段は摂らない朝食を口にしました。バターを塗ったトーストとブラックコーヒー、それと昨日作っていたゆで卵がこんなにおいしいんだと驚いたものです。
 さて、調子がいい日は早々に執筆にとりかかるに限ります。わたしは五年程愛用している薄汚れたノートパソコンを立ち上げて、傍らに置いたうすっぺらいノートに書きつけたうすっぺらいプロットとにらめっこしながら、キーボードをぱちぱちとやってうすっぺらい小説を書いていました(自分でうすっぺらいなんていうのはいけませんね。大作を書いていたと胸を張りましょう)。そのうちに部屋を照らす白い日差しはその光量を増し、わたしの背中はじっとりと汗ばみ始めます。扇風機を「強」にして風を感じながら、小説の中で私立探偵を動かしていたわけなのですが、この探偵たちがなかなか勝手に動き回る。わたしは彼らに手綱をつけて何とかコントロールしようとしていたのですが、どうやらわたしに騎手の才能は無いようです。やれやれ、今回も物語の構造がめちゃくちゃになりそうだ、わたしは自嘲気味なため息を吐いて、ファイルを閉じました。明日はきっと、今日の進捗を無に帰す作業になるんだろうと思って。
 そう、わたしの頭の中にはなんの疑問も無く、「明日」という言葉が浮かんでいました。なぜって、デスクの白い天板は夕焼けの朱色に染まっていたんですから――そこでわたしは、はっとして背後の窓を振り返ったのです。夏の太陽は西へ傾き、立体感のある、しかし薄い雲の前を二羽の鴉がゆっくりと横切っていきました。時計を見れば、既に六時を回っています。飲まず食わずで十二時間以上駄文をこしらえていたってわけで、まったく、狂気の沙汰です。
 疲労に、頭の奥がぴりぴりとしびれるような感覚がしていました。わたしは腕を伸ばして肩の凝りをほぐしてやり、流しへと向かいました。よほど汗をかいていたんでしょう、ぬるく、薬品臭い水道水でさえ驚くほどおいしく飲めました。干からびた体に水を与えてやると今度は胃の方が文句を言い始めます。トーストとコーヒー、それと一つのゆで卵で一日を乗り切れる程、わたしの身体は燃費がいいってわけじゃないみたいです。この時間ならまだ、馴染みのラーメン屋は開いているはずでした。
 わたしは部屋着を脱いで、外用のTシャツとデニムパンツを身に着けました。髪の毛は――誰に見せるわけでもありません――紺色の夏用キャップで隠します。きっとラーメン屋の店主はわたしの髪の事なんて詮索しやしないでしょう。
 財布とハンカチをバッグに入れて、わたしは部屋の外に出ました。外の暑さは日中のそれの残り香みたいなもので、風もあった分、過ごしやすそうです。おいしいラーメンが食べられそうでした。大学入学以来使っているスポークのぐにゃりと曲がった自転車も、心なし嬉しそうです。いい夕べだね、相棒。
 わたしは東大路通を一キロほど南へ向かい、例のラーメン屋へとたどり着きました。馴染みの店員さんの笑顔に迎えられて食券を買い、カウンターに通されます。店主のにーちゃんはいつも通りのとびきりの笑顔を向けてくれました。彼のえくぼで、ぴりぴりと疲れていた頭の奥がほぐされたような気分になりました。わたしは気をよくして、追加で缶ビールを注文してみたりしました。ラーメンがやってくる前に350ミリリットルのそれを飲み干し、腹の奥から滲み出してくる熱に酔います。店主のにーちゃんが「はいよー! おまたせ!」と叫んでわたしの前に並らーめんを置きます。とんこつ醤油で、鶏油をたっぷりかけたやつ。わたしは躊躇なんてしないでおろしにんにくを三匙放り込みました。明日、予定なんてものはないんですから。世の中には溶かさないでにんにくのライブ感を楽しむ宗派もあるようですけど、わたしからすればそれは邪道です。にんにくをぐにゃぐにゃと溶かして、濃厚なスープに姿を消した彼の、隠し切れない面影を楽しむんです。それがいいんじゃあないですか。スープのしみ込んだほうれん草を咀嚼して、麺を啜りました。酒の後の麺。安っぽくて、俗っぽくて、だけど最高の贅沢。それから五分間、わたしはばかみたいにラーメンを掻っ込んで、ご飯も追加してもりもり食べました。それはきっと、今日っていう日の肯定でした。
 店を出ると、もうとっぷりと日は暮れていました。お酒を飲んで自転車を漕いだらいけないな、なんていう順法精神は、幸いにも酔った頭の中に残ってくれていたようでした。わたしはスタンドを上げて、自宅に向けて歩き出そうとしました。その時でした。
「ゆう……?」
 ためらいがちな声が、わたしを呼びました。わたしは振り返りました。そこには一人の女の子が立っていました。いつからか、わたしがめっきり会おうとしなくなっていた子。わたしは、それで、酔いから醒めてしまいました。
「……久しぶり」わたしは軽く手を挙げました。彼女は少し安心したように微笑みました。
「ねえ、ゆう、今ひま? ちょっと歩かない?」
 わたしは三秒間だけ考えて、それで、頷きました。夜の東大路通は、あんがい人が多かった。
「最近、どう」
 元気だよ。
「授業とか」
 順調。
「今日、何してたの」
 なにも。
 二百メートルほど歩いて、信号で停まった時、彼女はわたしに湿っぽいまなざしを向けました。わたしは、目を逸らしました。向かいのスーパーは閉め作業を始めているようでした。
「ねえ、ゆう」
 何。
「今日、あたしの家さ、掃除したんだ。来ない?」
 どこか寂しさを感じさせる声でした。わたしはかぶりを振りました。
「さっき、わたし、にんにく食べちゃって。いっぱい」
「そ、か」
 わたし達の目の前の車道を、大型のトラックが駆け抜けていきました。彼女は眦を拭いました。排気ガスが目に染みたんでしょう。きっと、そうなんでしょう。
「ねえ、ゆう。あたしたち、もう、昔には戻れないのかな」
 わたしは彼女に微笑んで、ゆるく、首を横に振りました。信号が青になりました。わたしは自転車にまたがって、ペダルを一杯に踏み込みました。からっとした夜風が、突然、強く吹きました。キャップが空に舞いました。だけど、わたしは振り返らなかった。
「にんにくごと、愛してやれるからさぁ!」
 彼女の弱々しい叫び声が聞こえました。わたしは遠ざかっていくその声に、小さく、「もう、諦めてよ」と呟きました。彼女には、聞こえなかったでしょう。
 わたしはふと、目元をこすってみました。乾ききっていました。
 浅く、笑いました。
 家に帰って、ウイスキー・ソーダで酔いなおしましょう。それが正しい、今日の終え方です。
 わたしは、ペダルをまた、強く踏み込みました。月の大きな夜でした。

 ……なんていう妄想をなんの臆面もなく書けてしまうわけなんです、しばらく創作なんてやつをやっていると。いや、まったく狂気の沙汰です(それともそんなのはわたしだけなのでしょうか)。というわけで今回はこの辺で。皆さんお元気で。わたしは元気です。いぇい! 担当は二回生の有末ゆうでした。それでは。ごめんね。さようなら。

Edit 22:11 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

 

今月の担当

 

今月の担当日&担当者、のようなものです。これ以外の日にも、これ以外の人が更新したりします。

今月の担当は
上旬:小倉
中旬:暮四
下旬:double quarter です。

 

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