卒業式のおもいで
このごろはブログの期限をまもった覚えがとんとない。じつをいえばこの記事は三月下旬のものだけど、気が付けば新年度が本格的に始まっていた(略して新本格)。春休みって長いなあ大学生サイコーっておもっていたけれど、もう休みどころか残された大学生活の時間が短い。それでも創作サークルらしくよく創作のことをよく考えていたので、まあ、よしとしよう。
小説を書くとき、アイデアを考える仕方は人それぞれだとおもうけれど、わたしは最近お布団にくるまって考えることが多い。寝る前とか、起きた後とか。そんなだから二度寝する。このまえ暗闇の中でぼぅっと考えていたら、中学時代のことをおもいだした。あの頃の自分はいまおもいかえせばまあ斜に構えた「イタいヤツ」だったのだけど、そんなだから友達らしい友達は少なかった気がする。うそ、結構いた。それでも放課後に遊んだりとか、毎日一緒にいたりするような人は少なかった。
で、悲しかったことがある。それは中学の卒業式後のことだった。教室に戻って担任の先生のありがたいおことばを承って、それなりにうるっとした。でも悲しかったのはそのことじゃなくって、お別れが済んで一度トイレに立ったとき、戻ってくるともう教室に誰もいなかった。こういうのってそれなりに居残ってなんか話したりするもんじゃないの? みんなどこいっちゃったの? わたしは寂しくなって下駄箱に向かった。べつにいいし。高校ではもっといけてるやつになってやる。それで卒業式の日に、みんなで涙を流すんだ。
わたしは下駄箱に向かった。廊下では卒業生の川ができていた。みんなわやわや話してて、別れのおしゃべりとかわたしもしたかったのになとかおもった。下駄箱に辿り着いたとき、数学の先生がわたしの肩を叩いた。
「有末、おまえみんなと一緒にいかなかったのか?」
「え、どこっすか?」
「地下の一番奥だとおもうけど。前から予約されてたし」
聞いてねぇ、とはいわなかった。いってもむだだし。やっぱわたしはぶられてたんだ、くそどもめ。わたしは「わっすれてましたー」といって踵を返した。現場を押さえなくちゃいけない。それでどうなるってわけじゃないけどさ。でも悔しいじゃんよ。わたしは階段を駆け下りて地下一階にいった。
地下には会議室が四つあって、うちふたつはぶち抜きにできる。集会の時とかによく使うやつだ。どこのクラスも打ち上げをしているらしくって、扉からは卒業生が溢れて、揚げ物やあまいものの香りが漂っていた。わたしは一番奥の部屋に入った。向けられたのは、なんだこいつ、って目だった。めちゃ気まずい。でも幸いだったのは、それがわたしのクラスメイト達のそれじゃなかったことだった。部屋を間違えたらしかった。
しかし、おかしかったのはその部屋が間違いなく「一番奥」だったことだった。先生の間違いだったのかな、とおもって他の部屋を探ったのだけど、全部別クラスのだった。いよいよ先生にだまくらかされたのだろうかとおもって、やっぱりあきらめて帰ろうとした。わたしの中学生活のおわり、こんなかよ。
そうおもっていたら、視界の端を横切る影があった。別クラスの、それでもそれなりに仲良くしていた子だった。その子が階段を駆け下りて来たかとおもうと、くるっと回って、さらに階段を下りて行ったのだ。
それでわたしはおもいだした。地下はもっと下に伸びていたんだった。わたしは彼女を追って走り出した。階段をひとっとびに駆け下りて、踊り場でターン。もう一つ下の階について、あの子がまだ下へ走っているのが分かった。だからわたしは彼女の背中について地下六階までたどり着いた。ここが一番下の階だった。彼女はわたしに気が付いている様子はなかった、廊下を駆けて行って、角を曲がった。その先にわたしのクラスメイト達がいる部屋があるはずだった。
息を切らしていた。あたりまえだ、あんなに走ったんだから。わたしは締め付けるように痛むふくらはぎに鞭打って廊下を歩いた。上の階の喧騒はすっかり消え去り、換気扇の回る音が響いているだけだった。廊下には赤いじゅうたんが敷かれていた。それがさらに音を吸収しているようでもあった。
角を曲がったとき、誰かにぶつかった。あの子だった。真っ青な顔をしていた。彼女はわたしを見上げると、すごい力で突き飛ばして階段の方へ駆け戻って行った。なんだよ、まったく。わたしは廊下の先をみた。ひとつの扉がそこにはあった。木製で、両開きのものだった、真鍮製の金色のノブは掠れた輝きを放っていて、表面にはいい現わしがたい模様が浅浮彫で刻まれていた。なんの声もしなかった。なんの音もしなかった。
想起されるのは、さっき走り去ったあの子の顔だった。きっとあの子は扉を開いたんだ。
わたしは扉の前に立った。でも、ノブを掴むことはできなかった。その代わりにわたしは右の耳を、ぴったりと扉に当てた。なにかが掠れるような音が聞こえた。ものを引きずるような、蛇が息を漏らすような。
だからわたしは、これはだめだって確信したのだ。たぶん、この扉は開けちゃいけない。ここにいちゃいけない。わたしは立ち上がって駆け出した。
目が覚めたのは、その瞬間だった。夢でした、お察しの通り。
おもいかえせば怖くもなんともないけれど、やな夢だった事だけは確かだ。創作のことなんか考えて寝るからこんなになるんだ。
そんな話を、朝、雑談がてら友人に話してみた。そしたら彼は「それならぼくのが怖い夢を見たよ」といった。
「それってのもさ、こーんくらいの」
彼は、腕をいっぱいにのばした。さしわたり一メートル五十センチはあった。
「ニラがずるずるって出てきたんだよ、歯ぐきから」
以上、担当は有末ゆうでした。またね!
小説を書くとき、アイデアを考える仕方は人それぞれだとおもうけれど、わたしは最近お布団にくるまって考えることが多い。寝る前とか、起きた後とか。そんなだから二度寝する。このまえ暗闇の中でぼぅっと考えていたら、中学時代のことをおもいだした。あの頃の自分はいまおもいかえせばまあ斜に構えた「イタいヤツ」だったのだけど、そんなだから友達らしい友達は少なかった気がする。うそ、結構いた。それでも放課後に遊んだりとか、毎日一緒にいたりするような人は少なかった。
で、悲しかったことがある。それは中学の卒業式後のことだった。教室に戻って担任の先生のありがたいおことばを承って、それなりにうるっとした。でも悲しかったのはそのことじゃなくって、お別れが済んで一度トイレに立ったとき、戻ってくるともう教室に誰もいなかった。こういうのってそれなりに居残ってなんか話したりするもんじゃないの? みんなどこいっちゃったの? わたしは寂しくなって下駄箱に向かった。べつにいいし。高校ではもっといけてるやつになってやる。それで卒業式の日に、みんなで涙を流すんだ。
わたしは下駄箱に向かった。廊下では卒業生の川ができていた。みんなわやわや話してて、別れのおしゃべりとかわたしもしたかったのになとかおもった。下駄箱に辿り着いたとき、数学の先生がわたしの肩を叩いた。
「有末、おまえみんなと一緒にいかなかったのか?」
「え、どこっすか?」
「地下の一番奥だとおもうけど。前から予約されてたし」
聞いてねぇ、とはいわなかった。いってもむだだし。やっぱわたしはぶられてたんだ、くそどもめ。わたしは「わっすれてましたー」といって踵を返した。現場を押さえなくちゃいけない。それでどうなるってわけじゃないけどさ。でも悔しいじゃんよ。わたしは階段を駆け下りて地下一階にいった。
地下には会議室が四つあって、うちふたつはぶち抜きにできる。集会の時とかによく使うやつだ。どこのクラスも打ち上げをしているらしくって、扉からは卒業生が溢れて、揚げ物やあまいものの香りが漂っていた。わたしは一番奥の部屋に入った。向けられたのは、なんだこいつ、って目だった。めちゃ気まずい。でも幸いだったのは、それがわたしのクラスメイト達のそれじゃなかったことだった。部屋を間違えたらしかった。
しかし、おかしかったのはその部屋が間違いなく「一番奥」だったことだった。先生の間違いだったのかな、とおもって他の部屋を探ったのだけど、全部別クラスのだった。いよいよ先生にだまくらかされたのだろうかとおもって、やっぱりあきらめて帰ろうとした。わたしの中学生活のおわり、こんなかよ。
そうおもっていたら、視界の端を横切る影があった。別クラスの、それでもそれなりに仲良くしていた子だった。その子が階段を駆け下りて来たかとおもうと、くるっと回って、さらに階段を下りて行ったのだ。
それでわたしはおもいだした。地下はもっと下に伸びていたんだった。わたしは彼女を追って走り出した。階段をひとっとびに駆け下りて、踊り場でターン。もう一つ下の階について、あの子がまだ下へ走っているのが分かった。だからわたしは彼女の背中について地下六階までたどり着いた。ここが一番下の階だった。彼女はわたしに気が付いている様子はなかった、廊下を駆けて行って、角を曲がった。その先にわたしのクラスメイト達がいる部屋があるはずだった。
息を切らしていた。あたりまえだ、あんなに走ったんだから。わたしは締め付けるように痛むふくらはぎに鞭打って廊下を歩いた。上の階の喧騒はすっかり消え去り、換気扇の回る音が響いているだけだった。廊下には赤いじゅうたんが敷かれていた。それがさらに音を吸収しているようでもあった。
角を曲がったとき、誰かにぶつかった。あの子だった。真っ青な顔をしていた。彼女はわたしを見上げると、すごい力で突き飛ばして階段の方へ駆け戻って行った。なんだよ、まったく。わたしは廊下の先をみた。ひとつの扉がそこにはあった。木製で、両開きのものだった、真鍮製の金色のノブは掠れた輝きを放っていて、表面にはいい現わしがたい模様が浅浮彫で刻まれていた。なんの声もしなかった。なんの音もしなかった。
想起されるのは、さっき走り去ったあの子の顔だった。きっとあの子は扉を開いたんだ。
わたしは扉の前に立った。でも、ノブを掴むことはできなかった。その代わりにわたしは右の耳を、ぴったりと扉に当てた。なにかが掠れるような音が聞こえた。ものを引きずるような、蛇が息を漏らすような。
だからわたしは、これはだめだって確信したのだ。たぶん、この扉は開けちゃいけない。ここにいちゃいけない。わたしは立ち上がって駆け出した。
目が覚めたのは、その瞬間だった。夢でした、お察しの通り。
おもいかえせば怖くもなんともないけれど、やな夢だった事だけは確かだ。創作のことなんか考えて寝るからこんなになるんだ。
そんな話を、朝、雑談がてら友人に話してみた。そしたら彼は「それならぼくのが怖い夢を見たよ」といった。
「それってのもさ、こーんくらいの」
彼は、腕をいっぱいにのばした。さしわたり一メートル五十センチはあった。
「ニラがずるずるって出てきたんだよ、歯ぐきから」
以上、担当は有末ゆうでした。またね!
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