どうもはじめまして! 氷崎光と申します。
いい話が思いつかないので取り敢えず知り合いの話をしますね。
知り合い……ここではN君としますが、彼はある国民的アニメのファンでした。あの青いネコ型ロボットの出てくるあれです。今回の話はそれに大いに関連する話です。
ある日私は彼に呼び出されて某所にあるラボに行きました。あ、N君は研究者でして、今は共同ラボで他の研究者たちと一緒に研究をしているそうです。
「おお、よく来たね」
行って早々、私は入口から職員の方に案内されて最奥の部屋に通されました。そこで待っていたのはもちろんN君です。彼は満面の笑みでそう言って私に握手を求めました。私は取り敢えず差し出された手を握りました。
「もう大丈夫だから、職務に戻ってください」
彼は職員たちを下がらせました。そして私にこう言ったのです。
「氷崎君。僕はとうとう夢を一つ叶えたよ」
顔に満面の笑みを浮かべたまま。
私は何も言うことができませんでした。N君が何を言いたいのかわからないのだから、反応に困るというものです。そんな私の様子にN君も自身の不親切さに気づいたようでした。
「あぁ、これじゃ伝わらないな。とにかく、僕についてきてくれる?」
そう言って彼は振り返り、後ろの方に歩きだしました。私は言われた通り、彼についていくことにしました。
部屋は雑然としていました。大小様々な機械が置かれていて、足元には沢山のケーブルがまるで編み物をしているかのように通っていました。私が踏まないように歩くのに苦心したことは言うまでもありません。
機械はその画面によくわからない計算式を羅列させていました。私は彼が何の分野の研究者だったか思い出そうとしましたが、どうも思い出せません。
そうこう頭を悩ませているうちに、私たちは壁際にたどり着きました。何もない壁です。一体どうしたというのでしょう。
私が困惑していると、N君はその手を目の前の壁にあてがいました。するとどうでしょう。ピピッと何かの反応する音と共に、壁が自動で開いたではありませんか。私は驚愕して口をあんぐりと開けていました。壁の向こうは真っ暗で何も見えません。
「さぁて、この先だ」
N君はそう言って闇の中に飛び込みました。私は目の前のことについていけず、中々足を踏み出せません。すると闇の中からN君が顔だけ出して言いました。
「大丈夫だよ。さ、来て」
そう言われて踏み出さないわけにはいきません。私は思い切って闇に飛び込みました。
「どうかな?」
N君の声に目を開いた私は思わずああ!、と声をあげました。そこはあの作品の、主人公の暮らす部屋にそっくりの場所だったのです。大人二人が居るには少し狭い部屋。勉強机や本棚、押し入れ、見覚えのあるものばかりです。窓の外は、映像で流しているのでしょうか、どこか懐かしい夕焼けが見えていました。
まさか、好きが高じてここまでやってしまうとは。驚愕して辺りを見渡す私にN君は語り掛けます。
「驚いた?」
私は黙って首を縦に何度も振りました。N君は満足そうに頷きました。
「それはよかった。でも本当に見せたいのはこれからだよ」
そう言って彼は勉強机に近づきます。そしてその引き出しに手をかけました。
「”彼”はどこから来たんだっけ?」
答えるまでもありません。まさか、と身構える私をよそに、N君は引き出しを開けます。
今度は声も出ませんでした。引き出しの中は四次元空間になっていて、そこには見慣れた機械がありました。周囲には数個の歪んだ時計が、時を刻む音をたてながら浮かんでいます。私はしばし呆然として、それからN君を見ました。彼は本当に嬉しそうな表情をしていました。
「そう、完成したんだ。タイムマシンが」
彼の言葉に驚愕しつつ(さっきから私は驚愕しっぱなしです。起こっていることを考えれば無理もないことなのですが)私は”それ”をまじまじと眺めました。だまし絵などではありません。本当に、引き出しの中が時間旅行の入口になっているのです。見れば見るほど、信じられないという気持ちが湧き上がってきます。N君はしみじみと語り始めます。
「長年の夢だったんだ、時空を旅するの。これを作るのにどれだけの手間がかかったか」
職員たちと一緒に作ったのか?
私の問いにN君は首を振ります。
「いや、これは僕の独自研究だよ。もちろん、ここでやっている研究の応用だけれど。ここまで自分の趣味に寄った研究は流石にさせてもらえないよ」
とするとあの隠し扉からこの部屋の何まで自分一人で作ってしまったのか。
私は妙に感心してしまいました。するとN君は突然私の肩を掴んでこう言ったのです。
「で、君を呼んだのはこのタイムマシンの初搭乗者になってもらおうと思ってさ」
私は再び驚愕しました。何故私なんかを。私の問いにN君が答えます。
「だって君が一番僕の語りを熱心に聞いてくれたから」
その発言に私は少し困惑しました。N君はきっと少し勘違いをしている。彼はきっと私もそのアニメの大ファンだと思ったのでしょう。しかし私は自分の好きなものに没頭して、それについては何でも答えられる彼の姿に感服していただけに過ぎません。決して、嫌いなわけではありませんでしたが、めちゃくちゃ好きというわけでもなかったというのが本音です。なので私はN君に本当のことを言おうか迷いました。
しかし彼のキラキラした目を見ていたら期待を裏切るのも辛く……いや、本当のことを言いましょう。
タイムマシンが目の前にあるのに乗らないわけにはいかないでしょう!
私はN君にそういうことなら分かった、と伝えました。良心が私の心をちくりと刺しました。そんな私のことなどつゆ知らず、N君は嬉々として次のように言いました。
「じゃあ、”いつ”に行きたい?」
私は少し考えました。急に過去や未来に行くことができると言われて、ではいつに行きたいかと言われてもすぐに答えられるわけがありません。私はN君に少し考える時間が欲しいと伝えました。N君はもちろん、と快く承諾してくれました。
10分経過したぐらいでしょうか。私はほとほと困り果てていました。未来も過去も、両方とも見たいことには違いありません。しかしそれはそれらに対する想像を奪ってしまうことに他ならない。私にはこうだったらいいなという妄想を捨ててまで現実……もしかすると不快なものかもしれない現実を見に行く覚悟はありませんでした。
では逆に変えたい過去ならどうか。それも私には難しい問題でした。何故なら私は現状に既に満足してしまっているのです。現状を変えてしまいかねない大きな過去の修正に手を出す気にもなれません。
こうなるともう八方ふさがりです。何か、現状を保持したままでも変えられるような直したい過ちがあるか……
あ、と私は思わず声をあげました。いつの間にか隣に立っていたN君が決まったみたいだね、と微笑みました。
私は頷き、口を開いて—――
私の答えを聞いたN君は一瞬驚いた顔をしました。口を動かそうとして、片手でその口を塞ぎました。そしてそのまま、私の顔をじっと見つめました。
しばらく沈黙が流れた後、彼は不意にふふっ、と笑って言いました。
「君の人生が楽しそうで何よりだよ」
というわけで、ペンと紙をもらって記したこの話を託すから、ブログの記事に役立ててほしい。
私の机の上にはこう書かれた紙が置かれていました。……未来の私の人生が楽しそうで何よりです。
ともかく私はその時初めて自分が7月下旬の名称未定ブログ担当だったことに気がついたわけです。時計を見ると7月31日11時30分でした。私は風呂を15分で済ませ、寝室の冷房をつけ、この紙に書かれている内容をドキュメントに必死に写していました。そして先程、日付を超えたのを確認しました。
未来の私、面目ない。
これで謝罪に代えさせていただきます。それでは(逃亡)。
p.s. 机の引き出しを開けてみましたが、中はいたっていつも通りで特に何もありませんでした。
Edit
17:34 |
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